職場復帰の支援

昨今、職業生活において強い不安やストレス等を感じる労働者(以降、従業員)は、約6割に上っています。また、メンタルヘルス上の理由により連続1カ月以上休職し、又は退職した従業員がいる事業場は7.6%になりました。こうした状況の中、心の健康問題で休職する従業員への対応は、多くの会社にとって大きな課題となっています。今回は会社側の視点から、従業員の休職から復職への円滑な実施について、考えてみました。

基本的な考え方

心の健康問題で休職している従業員が円滑に職場復帰するためには、職場復帰へのルール作り等により、休職から復職までの流れをあらかじめ明確にしておくことが必要です。会社は、まず衛生委員会の設置や衛生管理者と産業医の選定などの労働衛生管理体制を整備して、衛生委員会において復職へのルール作りについて調査審議し、従業員への周知を図りましょう。以下、5つのステップごとに、職場復帰支援の流れを解説します。

職場復帰支援の各ステップ

第1ステップ:休職開始及び休職中のケア

従業員の心の健康問題が悪化し、主治医から要休職の診断書が発行されると、従業員の生活維持および会社の安全配慮義務の観点から、できるだけ早く休職に入る必要があります。業務の遂行に必要最小限の引き継ぎを済ませ、可能であれば産業医面談を経て、必要な事務手続きや職場復帰支援の手順を説明して、休職が始まります。従業員が安心して療養に専念できるよう、次のような項目については情報提供等の支援を行いましょう。

  • 休職期間中の会社の窓口
  • 傷病手当金などの経済的な保障
  • 公的または民間の職場復帰支援サービス
  • 休職の最長(保障)期間等 など

また可能であれば、休職期間中も1ヶ月に1回程度は従業員と連絡を取り、体調確認や復職に関する必要な情報交換を行うことが望まれます。

第2ステップ:主治医による職場復帰可能の判断

従業員の心の健康問題が改善してくると、復職が視野に入りますが、やはり安全配慮義務の観点から、主治医による職場復帰可能の診断書を確認すべきです。またこの時期には、従業員に生活記録表を記載してもらい、休職期間中に生活リズムが安定しているか、勉強や読書など集中力を要する作業が可能かなどを確認したいものです。

第3ステップ:産業医による職場復帰可能の判断及び職場復帰支援プランの作成

主治医による診断は、日常生活における病状の回復程度によって職場復帰の可能性を判断していることが多く、必ずしも職場で求められる業務遂行能力も回復している判断とは限りません。このため産業医が、職場で必要とされる業務遂行能力の内容や採るべき対応を判断し、会社に意見を述べることが重要です。また、管理監督者が従業員にとって無理のない職場復帰支援プランを作成することで、復職を前に不安になっている従業員に安心感を与え、スムーズな復職が可能になります。

職場復帰の判断基準

職場復帰可否については、個々のケースに応じて総合的な判断が必要です。従業員の業務遂行能力が完全に改善していないことも考慮し、職場の受け入れ制度や態勢と組み合わせながら判断しなければなりません。下記は判断基準の例です。

  • 従業員が十分な意欲を示している
  • 通勤時間帯に一人で安全に通勤ができる
  • 決まった勤務日、時間に就労が継続して可能である
  • 業務に必要な作業ができる
  • 作業による疲労が翌日までに十分回復する
  • 適切な睡眠覚醒リズムが整っている、昼間に眠気がない
  • 業務遂行に必要な注意力・集中力が回復している など

第4ステップ:最終的な職場復帰の決定

第3ステップを踏まえて、会社による最終的な職場復帰の決定を行います。

  • 従業員の状態の最終確認(疾患の再燃・再発の有無等について最終的な確認)
  • 就業上の配慮等に関する意見書の作成
  • 会社による最終的な職場復帰の決定
就業上の配慮

職場復帰は元の慣れた職場へ復帰させることが原則です。ただし、異動等を誘因として発症したケース等においては、配置転換や異動をした方が良い場合もあるので、留意すべきです。また、復帰後は労働負荷を軽減し、段階的に元へ戻すなどの配慮が重要です。復帰後の具体的な就業上の配慮の例を下記に示します。

  • 短時間勤務
  • 軽作業や定型業務への従事
  • 残業・深夜業務の禁止
  • 出張制限
  • 交替勤務制限
  • 危険作業、運転業務、高所作業、窓口業務、苦情処理業務などの制限
  • フレックスタイム制度の制限または適用
  • 転勤についての配慮 など

第5ステップ:職場復帰後のフォローアップ

職場復帰後は、管理監督者による観察と支援のほか、事業場内産業保健スタッフ等によるフォローアップを定期的・継続的に実施し、適宜、職場復帰支援プランの評価や見直しを行います。

  • 疾患の再燃、新しい問題の有無の確認(早期の気づきと迅速な対応が不可欠)
  • 勤務状況及び業務遂行能力の評価(従業員・管理監督者 双方の意見で評価)
  • 職場復帰支援プランの実施状況の確認
  • 治療状況の確認(通院状況、病状や今後の見通しなど)
  • 職場復帰支援プランの評価と見直し(適宜、職場復帰支援プランの内容の変更を検討)
  • 職場環境等の改善等(よりストレスを感じることの少ない職場づくりを視野に)
  • 管理監督者、同僚等への配慮(過度の負担がかからないよう配慮)

プライバシーの配慮

従業員の健康情報等は個人情報の中でも特にデリケートな情報であり、従業員の健康情報等は厳格に保護されなければなりません。とりわけメンタルヘルスに関する健康情報等は慎重な取扱いが必要です。

情報の収集と従業員の同意等

取り扱う従業員の健康情報等の内容は必要最小限とします。従業員の健康情報等を収集する場合には、あらかじめ本人の同意を得て、本人を通して行うことが望まれます。これらを第三者へ提供する場合も、原則、本人の同意が必要です。

情報の集約・整理

従業員の健康情報等を取り扱う人とその権限を明確にします。情報は特定の部署で一元的に管理し、業務上必要と判断される限りで集約・整理した情報を必要とする人に伝えられる体制が望まれます。

情報の漏洩等の防止

従業員の健康情報等の漏洩等の防止措置を厳重に講ずる必要があります。また、健康情報等を取り扱う人に対して、健康情報等の保護措置のため必要な教育及び研修を行います。

情報の取り扱いルールの策定

健康情報等の取扱いについて、衛生委員会等の審議を踏まえて一定のルールを策定し、関係者に周知することが必要です。

まとめ

現在、メンタル不調で休業を要する人の数は、確実に増えてきています。会社側の対応として、スムーズな職場復帰支援はもちろん、再休職を防止することも強く求められています。今回は会社側の視点から、従業員の適切な復職への導きとその後のフォローについて、まとめました。もし良かったら参考になさってみてください。

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