理想的な働き方とは

今回のブログは前回からかなり時間が経ってしまいましたが、この間に私は、病院の勤務医からクリニックの開業医へと立場が変わるなど、本職の働き方が大きく変わりました。今回は、働く人の心の健康をサポートする立場から、理想的な働き方について考えてみます。

働き方に関わる要素

働き方を考える際、仕事の内容・職場環境・ワークライフバランス・裁量度など、様々な要素があります。人によって要素の優先順位には違いがあり、優先順位が高い要素を基準にして仕事を選ぶことが、理想的な働き方を見つける手助けになるでしょう。

仕事の内容

働き方を考える上で一番大きな要素は、担当業務つまり仕事の内容だと思われます。組織の業種(サービス業/製造業など)、組織内での部門(営業/企画/開発/広報など)、部門での役割によって、その人の仕事の内容が決まります(実際にはもっと複雑だと思いますが)。

内容によっては、失敗が許されない緊迫感のある仕事や、集中力を切らすことができない密度の濃い仕事もあります。このような心理的重圧が苦手な人は多く、仕事を長く続けると体調を崩してしまう人も少なくありません。

緻密な計算に能力を発揮できる人、新しいアイデアを生み出せる人、人との交流が好きな人など、その人が得意とする分野は様々です。自分の特性やスキルを活かせる職務であれば、仕事がしやすく、やりがいを感じることができます。また、その人自身が、仕事の内容に興味を持てるものであったり、社会やチームに貢献することができれば、やりがいや自己実現の感覚が高まり、ストレスが少ない状態で長期的に仕事を続けることができます。

職場環境

職場の雰囲気や人間関係に大きなストレスを感じ、困りごとを周囲に相談しにくいような職場環境で、長く働くことは困難です。私の経験で言うと、働く人が不適応を起こさないためには、穏やかな雰囲気や円滑なコミュニケーションが非常に重要です。

自宅やレンタルオフィスなど、周囲への気遣いをあまり必要とせず、煩わしいと感じる人間関係から距離を置くことができ、通勤のストレスも少ないテレワークのような職場環境があっているという人は多いでしょう。一方で、テレワークでは、気軽な相談が難しく、雑談の機会が減少するため、孤立感が深まりやすくなります。その結果、困ったときに一人で抱え込んでしまい、次第に問題が大きくなって処理しきれず、最終的には不適応を起こしてしまうことがよくあります。社内や社外の人と、どのようにコミュニケーションをとるか、課題が残ります。また、オンとオフの切り替えが難しいなど、テレワークという働き方そのものがストレスになることもあります。

コロナ禍を経て、最近では出社とテレワークを組み合わせる勤務スタイルが多くの企業で浸透してきたようです。一人ひとりの個性や好みに合わせ、居心地の良さやライフスタイルを大切にしつつ、仕事とプライベートの時間を調和させ、バランスよく使える働き方が理想的です。

ワークライフバランス

ライフスタイル・ライフステージ・自身や家族の健康状態は人によって様々です。任された仕事により、時間外労働が長時間化したり、休日出勤が多かったり、夜勤・出張・海外勤務を強いられることがあり、そのような負担が大きなストレスとなり、健康にも悪影響を与えることがあります。時短勤務やフレックスタイム制などが利用できると、柔軟な時間の使い方ができるでしょう。働く時間とプライベートな時間をバランスよく取ることが重要です。

裁量度

仕事の裁量度は、その人が置かれた立場によって異なります。自営業だとシンプルですが、勤め人であれば、役員・管理職・担当者・派遣労働者・アルバイトなど、様々な立場があり、それぞれ裁量度も違うでしょう。また、顧客やビジネスパートナーとの関係も、仕事の裁量度に大きな影響を与えます。

スウェーデンの心理学者が提唱した「仕事の要求度―コントロールモデル」によると、「仕事の要求度が高い」かつ「裁量度が低い」と高ストレス状態となり、メンタルヘルス不調を引き起こすリスクが高まるそうです。仕事の進め方・スケジュール・解決方法を自分で決められたり、組織内で新しいアイデアを提案できるような環境があると、働きがいを感じることができ、ストレスなく成果を出しやすい傾向があります。

仕事の報酬や福利厚生

仕事において、適切な対価や福利厚生を得ることは極めて重要です。働く個人がその努力や能力に見合った収入とともに、健康や生活の安定を確保できる環境が整備されることが望ましいと考えられます。総じて、仕事の報酬は個人にとって魅力的で持続可能なものでなければなりません。組織にとっても、高い生産性や効率性を達成するために重要な要素となります。

各要素の優先順位

当然ですが、各要素の優先順位は人によって様々です。なぜなら人は、好み・得意分野・経験・体質・心身のエネルギーがそれぞれ異なるからです。ここでは、私自身の経験を振り返り、各要素に関する自分の優先順位を考えてみます。

勤め人時代の違和感

私はかつて、会社員として、あるいは勤務医として、組織から与えられた場所で働いていました。上から指示を受けてタスクを処理するという働き方は、多くを考えなくて良いので楽な働き方なのではと思っていました。しかし、そのような意識で働いていたのでは、自分の十分なエネルギー注ぐことはできず、自主性も乏しいため、仕事も最低限のことしかできません。一つひとつの仕事がどうも他人事のようなところがあり、自分が休んでも誰かがやってくれる、どこか甘えがあったような気がします。当然あまり評価もされませんでした。

どのような働き方であっても、自分の中でやりがいを感じたり、周囲から高い評価を受けるには、広い視野と深い洞察、高いモチベーションが必要です。組織に所属して、与えられた仕事をするという働き方は、私にとってはをどうも違うのではないかという、ぬぐえない違和感がありました。与えられた仕事が本当にやりたいことなのか、自分の居場所がここなのかどうか、確信できないないまま、なんとなく働いていたように思います。

開業後の変化

私は約一年前にメンタルクリニックを開業しました。とても小さなクリニックで、自分で受付・診察・会計を行う、「ほぼワンオペ」のクリニックです。クリニックの運営のほとんどを自分でしているので、当然自主性が必要で、責任も重大ですが、自分のやりたい仕事ができ、周囲に気を使う必要がなく、働き方も自由で、ストレスはかなり少ないと感じています。

また、尊敬する先輩医師から「院長になって何か変わった?」と聞かれ、考えてみました。これまでにはなかったこととして、患者さんが集まらずクリニックの経営が傾くのではないかという不安、なにかトラブルが起きた時に守ってくる人がいないという重圧も確かにあります。ただ、明らかに変わったのは、「自分の居場所はここ」「自分以外にやる人はいない」という確信を初めて得られたことです。私にとっての働く要素の優先順位は「裁量度」や「職場環境」が上位であることがわかりました。そして、自分は組織の中で働くことに向いてなかったと最近ようやく気づきました。

就労形態について

企業は競争力を高めるため、効率化やコスト削減を進める必要があることから、ワークシェアリングや非正規雇用の増加など、従業員の就労形態も変化しています。企業が経営の維持を優先する中で、従業員の雇用保障が低下し、これまでのような終身雇用制は、大きな見直しが避けられない状況です。

一方で今の日本は、少子高齢化による労働力不足の問題があります。問題解決のためには、働き方の多様化・人材の流動化・自律的なキャリア形成が求められ、日本の政府は企業に対し副業解禁を推奨しているようです。労働者一人ひとりにとっても、副業を取り入れれば、新たなチャレンジの良い機会になり、多様な働き方を実現できます。

私も本職以外に、様々な企業から従業員の健康管理に関する業務委託を受けています。クリニック以外で多様な環境で仕事をするのは、良い刺激になりますし、臨床では出会えない人々と交流する機会もあって、仕事に広がりを感じることができ、今のところ気分良く働けています。

まとめ

理想的な働き方とは、自分にとって無理のないエネルギーで、得意分野や能力を発揮しやすく、ストレスの少ない働き方が理想だと思います。その要素として、仕事の内容・職場環境・裁量度・ワークライフバランスなどが重要と思われます。

もし今の仕事に困難を感じているなら、まずはご自身の働き方に関する要素を振り返り、ご自身にとって優先順位を整理してはいかがでしょうか。優先順位として、担当業務や職場環境が上位に来るなら、まずは上司・人事・産業医などの方々に、業務や環境調整について相談するのがおすすめです。ワークライフバランス・裁量度・報酬が上位に来るなら、現在働きやすい仕事がないかアンテナを張りつつ、より主体性のある働き方(副業や独立など)をお考えになるのも良いかもしれません。

コメント