精神療法の定義は様々ですが、私が考える精神療法は「セラピストと患者さんとの精神的関わりを通じて、患者さんの心身に何らかの治療的変化を起こす治療」です。私はこのことを念頭に、精神科医としては患者さんとの診察、産業医としては企業の従業員の方との面談に日々取り組んでいます。
精神療法 : 精神的な関わり
精神科の患者さんは、中には「薬だけ」という方もいらっしゃいますが、多くの方が「辛さや不安や生きにくさをわかってほしい」というお気持ちで受診されます。精神科に関わる医療従事者は、患者さんに対して傾聴と共感が非常に大事だと日頃から叩き込まれますが、本当にその通りだと思います。
診察の場で、患者さんの訴えを丁寧に傾聴し、心から共感することにより、患者さんの気持ちに「ゆとり」が生まれ、患者さんの具合が良くなることが多々ある。つまり、患者さんとセラピストの主観世界が相互的に一部交わることによって、患者さんの中で新たな心理現象が生じるのです。
精神的な関わりによって、目の前の患者さんの「ゆとり」を生み、それを広げることが、精神科領域のセラピストの基本姿勢なのかなと思います。
心の健康
「ゆとり」を生んで広げることが大切だと述べました。人は誰しも「ゆとり」がなくなると、笑い飛ばすことができなくなり、些細なことにも腹を立ててしまい、過去に対する後悔や未来への不安が増します。逆に、現在に「ゆとり」ができれば、過去や未来の意味付けも「ゆとり」あるものになり、「心の健康」が保たれるようにになるのではないでしょうか。
どんな時も平常心を保とうとすることが、心の健康の維持につながると私は考えています。このことについて、今後このブログの中で書きたいと思います。
精神療法 : セラピストが留意すべきこと
セラピストの「ゆとり」は当然、日々の診療に影響します。「ゆとり」があれば、患者さんの言葉や態度に多面的な解釈ができますが、「ゆとり」がないと、患者さんのちょっとした一言にイライラして、きつい言葉を返してしまうこともあるでしょう。
まずはセラピスト自身が「心の健康」を維持することが大事で、診療の場では、セラピストの「ゆとり」を患者さんにおすそ分けするイメージが大事なのかなと思います。
また心から共感するといっても、患者さんのすべてを分かろうとするのはおこがましいことで、患者さんとセラピストの主観世界は必ずズレがあります。ズレがあることを真摯に受け止めた上で、患者さんとの共通理解を探り、その果てに「あなたの置かれた状況であれば、あなたの感情や行動も無理ないことです」というような容的な態度を示すことが大切だと思います。またセラピストは、言葉だけでなく、声量や声色、表情や身振りなどの態度にもメッセージを込めるべきでしょう。
まとめ
患者さんの思いや訴えを、セラピストは丁寧に傾聴した上で心から共感し、セラピストの「ゆとり」を患者さんにおすそ分けして、患者さんの心に「ゆとり」生むことが精神療法だと私は考えています。ただ、これは医療者と患者の関係だけでなく、「ゆとり」がなくなった人を前にした全ての人が、実践してみる価値があることだと思います。もしよろしかったら参考にしてみてください。
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