私達は誰もがストレスに出会い、多くの場合、意識しないでストレスに対処しています。ただ、人によってストレスへの耐性に違いがあり、同じストレスを受けても、平気な人もいれば、心が乱れてパフォーマンスが下がってしまう人もいます。 ストレスへの対処法 として役に立つのが、認知行動療法(CBT:Cognitive-Behavioral-Therapy)の考え方です。
ストレスへの対処法
一日のはじめに、ゆとりの時間をもつ
心にゆとりがない状態でいると、ちょっとしたストレスで心が乱れ、集中力が失われます。心のゆとりを作り出すために、「ゆとりある一日のはじめの時間」を過ごすことが大切です。
朝起きた後、できれば外に出て近所の公園を散歩する時間があると良いでしょう。鳥の鳴き声は元気で、朝の空気は清々しく、木々の緑も美しく感じられます。千葉大学や日本医科大学の研究では、森の中をゆっくり歩くだけで、ストレスホルモンや血圧・心拍数が下がったり、免疫機能が向上するなどの結果が出ています。
そのように、一日のはじめに「自然に接する時間」を持つことで、職場や学校に行ってからも、心のゆとりが維持でき、ストレスに心乱されることなく、仕事や勉強に打ち込め、充実した良い日が送れます。
いつも新鮮な気持ちで仕事や勉強に取り組む
日本の伝統芸能の一つである「能」の創始者である世阿弥は「是非とも初心忘るべからず。時々の初心忘るべからず。老後の初心忘るべからず」という言葉を残しています。
私が産業医の業務を通じて感じるのは、多くの新入社員の方はやる気満々で、「これから頑張るぞ」という意気込みにあふれています。しかし数年経つと、「この仕事は本当に自分に向いているのだろうか」「こんな仕事をしていて良いのだろうか」と様々な迷いが生じることが増えます。このような時、打開策として一度初心にかえってみることも一つの方法です。
生活にメリハリをつけ、やる気が出るのを待つ
何か問題に出会った時、気持ちが動揺したり気力がなくなるなど、やる気がでないときがあります。そんなときに問題解決を焦ると、気持ちが空回りして、適切な対処法が浮かばず、不本意な対応になってしまうことが多いものです。
このようなときには、焦らず問題解決を一旦保留する意味で、ひと休みしたほうが良いでしょう。マインドフルネスや、音楽・アロマ・ストレッチなど五感を刺激する方法が役に立ちます。少しでも気持ちが楽になることや楽しめることを増やし、生活にメリハリをつけて、やる気が出るのを待ちましょう。
少しずつ取り組む
やる気が出てきたら、問題に目を向けるようにしてください。嫌なことを無理にする必要はなく、できることから少しずつ取り組んでいくようにします。全てを解決しようとせず、具体的な問題を一つずつ解決することが重要です。
人に頼る
この時、一人で問題に向かっていけると良いですが、それが難しいこともあります。そうしたときには、思い切って他の人に相談することをおすすめします。その人に迷惑がかかると考えてしまうことがあるかもしれませんが、これは「考えすぎ」の場合が多く、このような自分を苦しめてしまう考え方(ここでは「迷惑をかけてしまう」という考え方)を切り替えることが大事です。
姿勢を正し、呼吸を整える
人前に立つというストレスから緊張し、普段のパフォーマンスが発揮できないことがあります。そんなとき、まずは体と呼吸を整えることを思い出しましょう。
緊張すると胸がドキドキしますが、「自分はドキドキしている」と客観的に気づき、姿勢を正し、呼吸を深めることで、鼓動が少しずつ穏やかになることに意識を向けると、自然に心が落ち着いてきます。
仏教の禅には「調身、調息、調心」という言葉がありますが、まさにこのことを言っているのだと思います。
周りの評価を気にしない
自分で立てた目標に向けて、自分なりに努力をしている時、周囲から全く評価されないことがあります。「何が楽しくてあんなことをしているのだろう」と冷ややかな目を向けられたり、時には笑われることがあるかもしれません。
しかし、他人からどう言われようが、笑いものにされようが、自分が信じてやっていることには動じない心を貫きましょう。もちろん、周囲から善意でアドバイスを受けることはあるでしょうから、目標に向けてプラスになるアドバイスは取り入れるべきだと思います。自分に活かせるアドバイスかどうかを判断するためにも、平常心の維持が大事になります。
日記を書く
日記は、過去の自分がどんなことを考えていたかを振り返り、今の自分の成長や現在地を知ることができます。また、うまくいかなかったことを振り返り対策を考えることで、毎日の体験をこれからの生活に活かすことができます。さらに、良かったことやポジティブな感情を思い出して、前向きな書き込みをすることは、精神的な健康だけでなく、肉体面の健康にも役に立つと言われています。
また、その日の出来事や感じたことを書くことは、自分自身を見つめ直す作業なので、自己洞察力や内省力が向上し、自分の性格や考え方の偏りが客観的に把握できるようになり、ストレス耐性が高まるとも言われています。
瞬時にわいた感情に呼応してすぐに行動するのではなく、数秒待つことで感情が整理できる「アンガーマネジメント」の効果もあります。文字を書くという行為には時間がかかり、日記を書き始めるときにはイライラしていても、書いているうちに感情が収まり、平常心を取り戻せることがあります。
日記の書き方に厳しいルール化をしてしまうと、ルールを守れず挫折してしまいがちです。毎日でなくても良いし、短時間で書き終える、良い意味でルーズな日記を書いてみるのがおすすめです。
認知や行動を修正する
問題に直面して悩んでいるとき、「自分はダメだ」「わかってもらえない」「何をやっても無駄だ」と決めつけてしまうことがあります。そうしたとき、それらが自分の思い込みであることに気づき、それを修正して、現実に目を向けて行動することが重要です。
これが認知行動療法の考え方で、認知行動療法でよく使われるのが「コラム法」です。コラムとは考えを振り返る記録表のことで、自分の思い込みで苦しんでいることに気づくきっかけになります。コラム法は、誰かに相談して気持ちが軽くなるときの会話の流れと同じです。このスキルが身につけば、自分で自分の認知や行動を修正する、つまり自分のカウンセリングができるようになります。
まとめ
ストレスへの対処法 として、認知行動療法的なアプローチの工夫を今回ご紹介しました。いずれの方法も、考えすぎず、心にゆとりを持ち、平常心を心がけるというところに帰着すると思います。もし参考になる対処法がありましたら、是非試してみてください。
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